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講演内容

第5回茨城県医師会県民健康フォーラム

「生活習慣病−あなたの努力で健康長寿−」

講演1
 「これでいいのか日本の医療」

原中 勝征 茨城県医師会長

これでいいのか日本の医療 原中 勝征 茨城県医師会長 「生きていて幸せ」と思える社会を求めるとき、医療面でどのような問題が起きているのかを検証したいと思います。

 いま、日本の総医療費は32兆円、そのうち税金による国の負担は9兆円で、残りは国民の個人負担と保険料です。本当に日本の国にお金がないのでしょうか。

 イギリスの医療は保険でなく税金で行っています。ブレア首相になってから医療費支出を1.5倍にしましたが、それでも手術を待っている人が100万人います。それを考えると、だれもが平等に医療機関にかかれる日本の医療制度を壊してはなりません。

 日本の医療費は高いのでしょうか。盲腸手術に例をとると、ニューヨークでは一日入院して243万円余、貨幣価値が日本の5分の1と言われる中国でも47万円余、日本は7日間入院して37万円余です。アメリカのように混合診療になったら、医者にかかれない人が出てきます。

 ところが、医療機器・薬価についてみると、イギリスでは30万円のペースメーカーが日本では160万円と、5、6倍の金額になってしまう。内訳をみると、輸入原価が25%、流通マージンが64%、医療機関差益が11%です。薬価はフランスの2.65倍、イギリスの2.66倍と、同じ薬を同じ量使っても費用にこれだけの差が出る。医療機器と薬を外国と同じ値段にすれば、約3兆円のお金が浮く計算になります。

 医師・看護師数をみると、アメリカは百床当たりの医師数が71人、看護師数が221人ですが、日本は医師が13人、看護師が43人と約5分の1です。勤務医が足りずに大問題になっており、特に産科は医療訴訟の問題もあって医師が減っていて、県内では中核病院でさえ産科がなくなっています。

 日本はアメリカに次いで第二位の予算国ですが、国内総生産に占める医療費の国際比較をみると18位。一方、公共事業費は、イギリス、イタリア、ドイツ、フランス、アメリカ、カナダの6カ国の公共事業を合計した金額よりもなお、日本ただ一国の公共事業費の方が多いのです。例えば5年でできる公共事業を10年に延ばして、その分、社会保障を充実してほしいものです。

 先進国で社会保障への国庫支出を減らしたのは日本だけです。後期高齢者が一番多い社会だと言われながら、社会保障費が減らされている。長生きして申し訳ない、早く死ななければと思わせる政治は本当の政治ではありません。私たちは、きちんとした税金の使い方を国に要求し、社会保障の充実を叫ばなければなりません。改革すべきことをはっきり述べなければいけない時代に来ています。日本医師会を中心とした各県の医師会は、「長生きできてこんなにいい社会はない」と思える社会をぜひつくりたいと思っております。皆様と一緒に活動いたしましょう。

講演2
 「メタボリックシンドロームの予防〜食事や生活から〜」

板倉弘重(茨城キリスト教大学教授)

メタボリックシンドロームの予防〜食事や生活から〜 板倉弘重(茨城キリスト教大学教授) 年をとってくると血管の壁にコレステロールや繊維が固まって内腔が狭まり、わずかに開通している部分で体に必要な栄養分を運びます。これが「動脈硬化」と呼ばれているもので、知らず知らずに進んでいき、ついには血行障害の原因になります。血管の内腔が狭くなって血栓ができると、心筋梗塞、脳卒中、足の壊疽、解離性大動脈瘤といった命にかかわることが起こってきます。これらは、潜在的に少しずつ進行して、ある日突然表に現れてくるのです。そこで、病気を予防し、健康を維持するためには日ごろの生活を見直す必要があります。

 動脈硬化の予測は、その方が「高脂血症」「高血圧」「糖尿病」を持っているかどうかをみます。この早期発見・早期治療が必要なのですが、実はもっと早くから注意すべきことがあります。それは、お腹に脂肪がたまってくる“腹部肥満”で、健康上の注意信号を私たちに与えています。さらに体の“炎症”、例えば歯周炎のような慢性的な炎症を持っていると動脈硬化が進む一つの誘因になります。“喫煙”も動脈硬化をさらに悪化させます。また、日常生活上の“ストレス”も病変を進行させる要因になります。その人にとってのリスクは何かということを見極めて、効果的な対応をとる必要があります。それには、自分の体質をよく知っている身近なお医者さんを持つことがこれからは大事になります。

 健康度・不健康度を段階的にみると、まず「健康」で、だんだん具合が悪くなって「病気」が起こるのですが、その間に境界域があって、これを中国では「未病」と呼びます。日常生活は全く健康であるが詳しく調べると何らかの異常がある。詳しく調べればほとんどの人は何らかの異常があるけれども、それでも病気を「進行」させなければ80歳、90歳まで元気な生活を送ることは可能です。例えば糖尿病の前の段階では、空腹時の血糖値は高くないが食事をすると血糖値が高くなる状態があります。これを食後過血糖、あるいは境界域の糖尿病と言いますが、この段階で気をつければ糖尿病にならないで済むこともあります。高脂血症も血圧も境界域ぐらいの軽度の異常であっても、これらが重なると心筋梗塞等が起こりやすいことが研究でわかってきました。そのことを「メタボリックシンドローム」と言います。一つ一つの検査値は大したことがなく病気の対象になっていなくても、これが重なると動脈硬化が非常に進行するのです。現在「境界域」で、たばこ・ストレス・炎症がある方の場合には特に気をつけなければいけません。

 メタボリックシンドロームとは別にそんなに難しいことではなくて、少し「太り気味」のことです。おへその周りで測って、男性は85cm以上、女性は90cm以上という基準です。しかし,この基準は絶対的なものではありませんから、その前後の方は注意が必要になってきます。同時に、HDLコレステロール、血圧、血糖値等もこれまで考えられてきた状態よりもっと低い段階から対策をとった方がいいということが言われており、これがメタボリックシンドロームの考え方です。

 メタボリックシンドロームでなぜ動脈硬化を起こすのでしょうか。内臓の中に脂肪がたまってくると脂肪組織からアディポサイトカインという物質が出てきて、これが動脈硬化その他の病気を起こすことがわかってきました。活性酸素がふえ、酸化ストレスがふえて、これが病気を進行させる。たとえお腹に脂肪がたまってきても、動脈硬化を進行させる原因をできるだけ防ぐことで病気の発症を防ぐことができますので、それぞれの体質にあわせて注意していくことが非常に大切になるわけです。この酸化ストレスを防ぐものとしては、ビタミンE、βカロチン、ビタミンCといった抗酸化ビタミン。それから、赤ワインとかチョコレートに含まれるポリフェノール、セレニウム、最近はサプリメントではコエンザイムQ10、アルファリポ酸など、これらの抗酸化物が動脈硬化あるいはがんの進行を抑えてくれるということで注目されております。

講演3
  「狭心症,心筋梗塞にならないために」

山口 巌(筑波大学附属病院長)

講演 山口 巌(筑波大学附属病院長) 心臓は、規則的なリズムで、適正な圧力で、絶えず血液を全身に送り続けるポンプです。心臓自身に血液を送っている血管を冠動脈といいます。その冠動脈が狭くなったり詰まったりすることによってと狭心症、心筋梗塞が起きるのです。心臓病によって心臓から血液を送り出すポンプ機能が破綻した状態を心不全といいます。軽症なものから心臓移植を考えなければならない重症の患者さんまでさまざまです。死因別死亡率の年次推移を見ると、悪性腫瘍と心疾患が並行して上昇し続けています。社会の高齢化もありますが、若いときの生活習慣が影響していることが見てとれます。不適切な生活習慣から生み出されるメタボリックシンドロームが虚血性心疾患の基本となる病態であり、高血圧、高脂血症、糖尿病といった病態を多く合併するほど動脈硬化を促進して、脳梗塞や心筋梗塞などが起こりやすくなるのです。

 その予防のために、適切な「食事」とともに「運動習慣」を私たちは勧めています。適切な運動とは競争するようなものではなく、「無理なく長時間続けられる運動」として、ウォーキング、ジョギング、水泳、水中ウォーキング、サイクリング、軽い体操といった運動を指します。虚血性心疾患の予防に、禁煙は非常に重要な要因になります。

 しかし、虚血性心臓発作は突然起きることを忘れてはなりません。心筋梗塞による死亡例だけを発作からの時間で分類すると、心筋梗塞の発作を起こして病院に到達する前に約半数が亡くなる。そのほとんどは心室細動という不整脈によります。急性心筋梗塞の時間的経過を細かく見ると、発症後30分は不整脈による死亡が多い。それ以後になると心不全による死亡が多くなります。血管が閉塞することによって心臓の組織、筋肉が死んでしまう状態が発症後6時間で完了しますから、この6時間までに治療を開始すれば心筋は生き返る部分がある。できるだけ早く医師のもとに患者さんが到達して治療を受けるシステムが必要になるわけです。

 動脈硬化や血管の攣縮によって冠動脈の内腔が狭くなって血液が通りにくくなり、胸部の圧迫感を生じる症状を「狭心症」、冠動脈が完全に閉塞することによって心筋への血流が途絶した状態を「心筋梗塞」といって、その二つをあわせて虚血性心疾患といいます。冠動脈狭窄率が50%の場合は運動しても症状は出ません。75%以上になって初めて、強い運動によって胸部症状が出現します。90%狭窄になると運動で症状が出ますが、運動しなければ症状は出ません。安静にしている場合は90%でさえ症状が出ず、100%狭窄になって初めて安静時に症状が出る状態になるのです。このように欠陥が徐々に狭くなって心筋梗塞になるのは少なく、突然起こる。

心筋梗塞は冠動脈の粥腫(プラーク)が破裂して、その中身の細胞やら繊維やらいろいろな物質が出て血流をストップさせることです。粥腫が大きくなればなるほど、破裂の可能性は高くなるわけですが、この粥腫が薄くても小さくても破裂する危険はいつでもあります。粥腫が破綻することで急性心筋梗塞が起き、急性心筋梗塞が起きると同時に心臓突然死が起きる危険性があるのです。

 虚血性心疾患の診断のための検査法には、心電図、運動負荷心電図、心エコー図検査、心臓核医学検査、冠動脈造影検査、心磁図、CT、MRIなどがあります。心臓核医学検査は心臓の中に管を入れたりすることなく異常所見が見つかることが多いのでとても便利な検査になっています。心磁図は私たちが開発した装置で、患者さんは何にも触れることなく全く被侵襲的に繰り返し受けることができる検査です。

 虚血性心疾患の治療は冠血行再建術と薬物療法があります。とにかく発症から30分以内が一つの大きな勝負どころになります。自動体外式除細動器は、心室細動が起きたときに直流通電で除細動を行うと元のリズムに戻るという装置です。蘇生の可能性は一分ごとに7〜10%ずつ低下します。時間がたてばたつほど低下するわけですから、早い対応が必要ということです。

 経皮的冠動脈形成術は、大腿動脈から管を入れて、ねらいの場所にまずガイドワイヤを挿入します。そのガイドワイヤにバルーンを付けた管を挿入して、そこで風船を膨らませると狭窄が解除される。それを確かめてカテーテルを引き抜いてくるという方法です。現在は、治療したところが再び狭くならないようにステントという「さや」を入れる方法もあります。

心筋梗塞、虚血性心疾患による死亡を未然に防ぐには、まず何より予防です。それから、「予兆」の早期発見、診断が重要になります。